一卵性親子からの卒業・・・「私の人生」を取り戻すまで

「親との関係がしんどい。でも、親だから距離を取るのは悪いことだと思ってしまう。」
そんな悩みを抱える女性は、実はとても多いのです。

今日は30代のCさん(女性)のお話をご紹介します。

「母親だから、こういうものだと思っていた」

Cさんの母親は、娘であるCさんのことを何でも把握していたいタイプでした。

・仕事のこと
・恋愛・結婚のこと
・食事や服装のこと

何にでも口を出し、自分の意見を押し付けてくる。しかもそれは否定的なコメントが多く、Cさんの選択はなかなか肯定されません。

しかし、Cさんは「親とはそういうものなんだろう」と思い込んでいました。
なぜなら、子供の頃からずっとそうだったからです。

でも、友人たちが親と適度な距離を保っている様子を知り、
「うちの親子関係はちょっと異常かもしれない」と気づき始めたのです。

一卵性親子の時代背景

実はこのようなケースは今では珍しくありません

「一卵性親子」という言葉があります。
少子化により、母親が一人っ子や少ない子供に意識を集中しやすく、干渉が過剰になるのです。

以前は反抗期を経て親離れが自然に進みましたが、今は反抗期のない子供が増えているため、
この関係が大人になっても続きやすいという背景があります。

Cさんも例外ではなく、反抗期はほぼなかったそうです。
母親の言う通りにしていれば機嫌は良く、優しくしてくれる。何でもやってくれる。

以前はそんな母親をありがたいと思わなければと自分を責めていたものの、
次第に息苦しさが募り、耐えられなくなっていきました。

「このままずっと母の言う通りに生きていくのかと思うと、吐き気がする」
そんな言葉を、Cさんは涙ながらに口にしました。

母親との距離を取るための第一歩

このようなケースで心理カウンセラーとしてよく提案するのは、
「母親との距離を取ること」です。

一卵性親子の特徴は、母と子の間に適切な境界線(バウンダリー)がないこと。

親と子というよりも「大人同士の人間関係」として距離を見直す必要があります。

Cさんには以下のような具体的なステップを提案しました。

  • 一人暮らしを始める。

  • 母親との連絡頻度を減らす。

  • 電話やメールは毎回対応せず、間隔を空ける。

  • 自分からは母親を誘わない。誘われても、可能な範囲で断る。

  • 母親の考えに無理に同意しない。

罪悪感と不安との戦い

こうした行動をとる際、多くの人が感じるのは強烈な罪悪感です。

「親孝行であるべき」「親を大事にすべき」という日本社会の価値観は根強いため、
母親の誘いを断るだけで「私は親不孝者だ」という感覚に襲われるのです。

さらに、罪悪感の背後には、自立することへの不安や恐れも潜んでいます。

このため、一度決意しても、つい母親の誘いに応じてしまうこともあります。
しかし、そこで「誘いに乗った自分はダメな人間だ」と責めるよりも、
「ああ、私は不安を感じたから、思わず誘いに乗ってしまったんだなあ。そんなこともあるよね。人間だもの」
冷静に自己認知し、自分を認めることがとても大切です。

そうした積み重ねが「思わず反応してしまう」場面を減らしていきます。

徐々に「NO」が言えるように

Cさんも最初は母親の誘いを断ることが大きな壁でした。

しかし、カウンセリングの中で気持ちを整理しながら進め、
少しずつ「NO」と言えるようになっていきました。

そして半年後、念願だった一人暮らしをスタート。
母親との連絡は、しばらくの間一切断ったそうです。

その間、母親からは何度もメールや電話が来たそうですが、
Cさんは罪悪感と闘いながらも、無視を貫きました

それほどまでに、Cさんにとっては強硬な姿勢が必要だったのです。

やがて、母親からの連絡も次第に途絶え、
Cさんは人生で初めて「自分の気持ちを最優先する」生活を送っていました。

そして半年が経った頃、ふと母親の誕生日が数日後だと気づき、
「おめでとう」のメールを自然と送ったそうです。

「母親からの連絡を無視していたのに、それすら忘れて、ただ『おめでとう』を伝えたいと思ったんです。
驚くほど自然に、当たり前のようにメールを送っていました。」とCさん。

母親からは「ありがとう。嬉しい」との返事が返ってきました。

「今思えば、母親から『どうして無視したの?』と責められるかもしれなかったのに、
そんな言葉は一切ありませんでした。
気づけば私のほうから自然に『誕生日ランチに行く?』と誘っていたんです。」

このやり取りをきっかけに、母親との交流は再開しました。
Cさん曰く、**「以前よりもずっと良い距離感でやり取りができるようになった」**とのことです。

「母の愛」という視点の転換

そんな頃、私はCさんにこんなことを伝えました。

私:「お母さんが口出しをするのは、愛からなんですよ。」
Cさん:(絶句)「この人、何言ってるの?」という表情。

私:「お母さんはCさんのことが本当に大好きなんです。だからこそ、干渉という形で愛情を表現してしまっているんですよ。」

Cさん:「そんな…。愛なら、私の選択を否定しないはずじゃないですか。」

私:「お母さんにとって『干渉すること』が愛情表現なんです。本当は『愛しているよ』と直接言いたいけれど、不器用でそうできない人なんですよ。」

Cさん:「そんな風に考えたこともありませんでした…。」

Cさんは「愛」にはいろんな形があるのだ、ということを考え、また、母の愛も確かに実感されたようでした。

自分の人生を生きるということ

現在も母親は口出しをしてきます。
けれども、Cさんの捉え方は大きく変化しました。

「これはお母さんの愛情。でも私には愛情として受け取れないから、お返しします。」

そうやって冷静に対応し、自分の意見をしっかり伝えています。

そして今、Cさんは結婚し、子供も授かり、実家とも心地よい距離で付き合えるようになっています。