クライエントさんは、最近「できないと言う勇気」について考えさせられる出来事が立て続けにあったと話してくれました。
まず一つめは、ビジネス分野のセミナーのこと。
資格はある。でも「私、ビジネスが本当に苦手で…」という思いが強く、担当しようとすると胸がぎゅっと縮む。
分野に苦手意識があるだけで、やってみたい気持ちはあるのに、自分でブレーキをかけてしまっていたそうです。
二つめは、セミナーでの場面。
以前「少し長い」と言われたことがずっと心に残り、必要な言葉まで削ってしまった。
その結果、初めての方には届かず、「全く入れませんでした」と涙ぐまれてしまい、自分を責め続けたと話していました。
三つめは、自分のライフワークを人に伝えること。
「押しつけに感じるかも」「迷惑かも」と考えすぎてしまい、伝えたいのに口を閉ざしてしまう。
こうした“遠慮ぐせ”が、日常でもよく出てしまうと言います。
たとえば、家族に頼めばいい家事を黙って一人で抱え込むとか、わからないことを「わかりません」と言えずに笑ってごまかしてしまう、と。
そんなクライエントさんが、ある日“自由すぎる人”に出会いました。
やりたいからやる。やめたくなったらやめる。会いたいから会う。
そんなストレートな人で、ずっと苦手意識があったのに、思い切って話しかけてみたら、三つの悩みをほどく言葉を次々もらったそうです。
その人は、まずこう言いました。
「ビジネスが苦手って、むしろ強みだよ。苦手な人の気持ちがわかるからね。わからないことは“詳しい人を紹介するね”でいいんだよ。」
このひと言でクライエントさんは、張りつめていた肩の力がスッと抜けたと話していました。
セミナーでのことについては、
「最初に『少し長く感じるかもしれないけど大事な時間です』と伝えたら安心してもらえるよ」
と言われ、ハッとしたそうです。
そして三つめの「伝えるのが苦手」という悩みには、思わず笑ってしまうくらいシンプルに、
「あなたが言わなくていいよ。伝えるの得意な人に頼めば?」
と返されたそうです。
その瞬間、クライエントさんは今までの「できない私はダメ」という思いこそが、自分を苦しめていたと気づいたと言います。
「できない」と言うのは弱さじゃない。
むしろ、人を信じる力。頼る力。
そして、自分を守る力。
最近、そのクライエントさんは、少しずつですが「できません」と正直に言ってみる練習をしています。
すると不思議と、助けてくれる人が次々に現れるそうです。
「リハビリ中だけど、できないって言える私も悪くないですね」と、照れながらも少し誇らしげに話してくれました。
私はその言葉を聞いて、心の中でそっとうなずきました。
“できない”と言える人は、人とつながる力を持っている。
その一歩を踏み出したクライエントさんは、すでに大きく前に進んでいる、と思います。