「今日は何を着よう?」が、人生を変える

先日、友人に誘われて、デザイナーのコシノヒロコさんの講演会に行ってきました。
その存在感に、最初の一分で心をつかまれました。

オシャレで、自然体で、好奇心いっぱい。
なのに、どこかお茶目で優しい。
その一方で、目力が強くて、凛とした気品がある。

まるで「生きることそのものが表現」になっているような人。
見ているだけで、心が元気になるような存在でした。
会場に流れる空気まで明るくなるような感覚。
「エネルギーに触れる」とは、まさにこういうことだと思いました。

その中で特に印象に残ったのが、彼女の言葉。
「洋服は、一番近い環境なんです」

この一言に、ハッとしました。

私たちは「環境」と聞くと、家や職場、人間関係などを思い浮かべます。
けれど、よく考えると、毎日肌に直接触れているのは洋服です。
つまり、どんな服を選ぶかが「どんな環境に自分を置くか」ということ。

たとえば、気分が沈む日は、つい地味な服を手に取ったりします。
逆に、朝から気分が軽い日は、明るい色の服や、お気に入りの服を選ぶ。
服の色や素材、形が、その日の心の状態を映しているのです。

私自身、産後に気持ちが沈んでいた時期がありました。
毎日同じ服ばかり着て、着替える気力も湧かない。
「何を着ても自分なんて同じ」と思っていました。
そんなある日、たまたま違う服を着て外出した時、
顔なじみの助産師さんが「今日は違う服ね」と優しく声をかけてくれたのです。

その瞬間、胸の奥がふっと温かくなりました。
「見てもらえている」「私はここにいる」
そんな小さな一言に救われたのを、今でも覚えています。
あの時から、「洋服はただの布ではない」と感じるようになりました。
服は“自分をどう扱うか”を映す鏡なのです。

最近、こんな相談を受けることがあります。
「もうおしゃれする年齢じゃないと思っていたけれど、何を着たらいいのかわからない」
ある女性は、子育てが終わって自分の時間が増えたのに、
クローゼットを開けても着たい服がないと言っていました。
「どれを着ても“昔の自分”みたいで、今の気分に合わない」と。
まるで人生の続きを描けなくなったような気持ちになる、と話してくれました。

そんな時、私はこう伝えます。
「洋服は、未来の自分へのメッセージですよ」
“これからどんな自分でいたいか”を、服が代わりに表してくれます。
服を選ぶことは、これから生きる方向を選ぶことでもあるのです。

コシノヒロコさんが講演で着ていたのは、深みのある紫の服。
首元には存在感のあるシルバーのネックレス。
派手すぎず、控えめすぎず、そのバランスが絶妙でした。
あの装いには、「私は今も挑戦している」という静かな誇りが感じられました。
服は飾りではなく、生き方の表現なのだと思います。
そしてそれは、どんな年齢からでも変えられるのです。

朝、クローゼットを開ける瞬間。
「今日は何を着よう?」という問いの奥には、
「今日はどんな自分で生きたい?」という小さな声が隠れています。

自分を雑に扱う日があってもいい。
でも、たまには自分のために、少し背筋が伸びる服を選んでみる。
それだけで、心が少し前を向くものです。

洋服は、心と体を包み込む“いちばん近い環境”。
だからこそ、今日の自分を大切に扱うための服を選びたいですね。