最近、そのクライエントの女性は、人を家に招く機会がふえました。
特別にすごい腕前があるわけではないけれど、料理を作るのが好きで、喜んでくれる顔を見るのも好き。
だから「誰かが来る日」は、彼女にとって小さな楽しみになっていたそうです。
先日、仲のいい友人を招いた時のこと。
その日は鍋。いつもの味なのに、その友人は目を細めて「このだし、本当においしい〜」と何度も言ってくれて、しめの雑炊まで完食。
「おいしい、おいしい」と言ってもらえると、人って自然と心がゆるむんですよね、と彼女は笑っていました。
二回目はリクエストで餃子。
家族にも人気のメニューで、手が勝手に動くほど慣れた作業。
焼き上がった餃子をテーブルに出すと、友人は「食べ過ぎだよね…でも、おいしすぎて止まらない」と何度もおかわりしてくれたそうです。
食後、友人は彼女のご主人に向かって、ふと言ったのです。
「こんなに料理上手な奥さんっていいね。いつもこんなの食べてるの?ほんと、感謝しなきゃ」
それを聞いたご主人も照れたように、「そういえば、ちゃんと伝えてなかったね。いつもありがとう」と笑顔を向けてきたといいます。
その瞬間、彼女の胸の奥にあたたかいものが広がりました。
けれど同時に、心の奥がすこしざわついたのです。
「私が…料理上手?そんなはずない」
「好きなのは確かだけど、上手と言えるほどかな?」
この“受け取りにくさ”は、多くの女性が持っています。
長年、家事や料理をしてきても「できて当たり前」と扱われることが多く、自分で価値を感じづらくなる。
褒められても、「いやいや、そんな…」と引っ込めてしまう癖がついてしまうのです。
でも、その日は違いました。
「料理上手」という言葉が、ゆっくり彼女の中にしみこんでいきました。
思い出すたび、思わずニヤッとしてしまうぐらいに。
次の日、スーパーで鶏ガラが目に入りました。
「これ、スープにできるんだよね。…やってみようかな」
気づけばカゴに入れていたそうです。
その次の日は、娘さんのリクエストでエビフライ。
お肉売り場で美味しそうな豚肉を見て、
「トンカツも揚げてみようかな」とふと思ったとのこと。
実は両方とも「自分にはムリ」と決めつけていたメニューでした。
「臭みが取れなそう」「カラッと揚がらなそう」と、長いあいだ思い込んでいたのです。
けれど、その時の彼女は違いました。
“失敗したらどうしよう”よりも
“やったことのないことをやってみたい”の気持ちが強かった。
結果――
鶏ガラスープは驚くほどいい味に仕上がり、トンカツもカラッと揚がって、家族もびっくり。
まるで彼女の中で何かがひとつ上がったような感覚だったそうです。
友人の「料理上手」というひと言。
それだけで彼女の中のイメージが変わり、行動が変わり、結果が変わった。
人からの言葉を素直に受け取ることって、こんなに力があるんだと、彼女はしみじみ話してくれました。
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セルフイメージが上がるといいのは、自分の中で“小さな挑戦”が自然とふえていくから、と思います。
まだ見たことのない自分に、もう少し会ってみたくなるからです。
やることは同じ「ごはん作り」でも、気持ちが変わると、選ぶ食材も、手の動きも、出来上がった時の景色も、少しずつ明るくなっていきます。
そして、セルフイメージを上げる入り口は、本当にどこからでもいいのです。
料理でも、片づけでも、仕事でも、人との関係でも、「私って、こんな面があるんだな」と感じられる一言があれば、そこから心の扉がふっと開きます。
その小さな一歩が、自分を見る目をやさしく塗りかえていきます。
あなたにも、最近誰かに言われて、なぜか心に残っている言葉はありませんか?
その言葉を、今日はすこし大事に抱きしめてみてください。
思っているよりもずっと大きな力が、その一言の中にひっそりと息をひそめています。