先日、友人ご夫婦に会いました。
おふたりはどちらも楽器をたしなんでいて、息がぴったり。
目を合わせてうなずき合いながら音を重ねていく姿は、それだけで「信頼しているんだな」と伝わってきました。
やわらかい空気が会場いっぱいに広がって、こちらの肩の力までふっと抜けていきました。
演奏のあとに質問タイムがありました。
「どうしたら、そんなふうに仲よくいられるんですか?」
「けんかしたときは、どうしているんですか?」
そんな声が次々にあがりました。
その中で、ご主人の言葉がとても印象的でした。
「うちの妻は、自分から気持ちをどんどん話すタイプじゃないんです。
でも、顔を見ていると『本当は何か話したいんだろうな』というのが分かる。
そういうときは、あえて時間を作って、ふたりで散歩に行きます。
ただ歩きながら、ぽつりぽつりと話すんです。
長いときは、一時間くらい歩いているかな」
奥さまも、
「家の中で向かい合って話すより、外で歩きながらのほうが、なぜか本音を言いやすいんです」
と笑っていました。
ここまで読んで、「うちはそんな夫じゃない」「気づいてなんてくれない」と、ため息が出た方もいるかもしれません。
けれど、ここで大事なのは、「もともと分かり合えている夫婦かどうか」ではなく、「話すことを習慣にしているかどうか」です。
多くの相談で耳にするのは、
「子どもが家を出て、夫とふたりになったのに、会話が続かない」
「顔を合わせると、生活の連絡かお金の話ばかりになる」
という声です。
話したほうがいいと分かっていても、今までその時間を作ってこなかったなら、いきなり深い話をするのは、とてもハードルが高いのです。
だからこそ、最初は“習慣づくり”だと思ってみてください。
たとえば、
「毎週土曜の朝、10分だけ一緒に散歩する」
「月に一度、ふたりでモーニングに行く」
そんな小さな約束でかまいません。
時間も「10分だけね」「ここまで歩いたらおしまい」と、あらかじめ終わりを決めておくと安心です。
テーブルで真正面から向き合うのが苦手なら、外に出て横並びで歩くスタイルがおすすめです。
お気に入りのカフェのいつもの席でもいいでしょう。
家から一歩出るだけで、ふだんの役割や空気から少し離れることができます。
実際に、
「週一回だけ、一緒にスーパーに歩いて行く日を決めました。
それだけなのに、帰り道にちょっとした本音が出るようになりました」という方もいます。
買い物ついでの10分が、「気持ちの行き来がある時間」に変わっていくのです。
はじめのうちは、「面倒くさいな」「話すことなんてない」とお互い思うかもしれません。
それでも、予定に入れてしまって、半ばむりやりでもやってみる。
人は不思議なもので、続けているうちに、それが「当たり前のこと」になっていきます。
大切なことは、完ぺきな夫婦になることではありません。
お互いの気持ちを少しずつ差し出し合う時間を、ふたりで育てていくこと。
今日いきなり一時間話す必要はないのです。
まずは、十分の散歩やお茶から。
「ここから変えていけるかもしれない」と、自分のためにひとつ、小さな約束を作ってみてください。